- 2008年10月26日 22:43
- game
死んでしまうかと思った。
拍動と呼応するように生み出される感情が血管を埋め尽くしてエロゲをしながら死んでいくのではないかと思った。
家族嫌いにとっては苦しいほど胸が痛い。
「泣けるの？」と聞かれたら泣けると答える。「そんなに泣けるの？」と聞かれたら、そこまで言うほどではない、と答える。でも見過ごせない何かがあるかもしれない。
（以下微妙にバレ含む）
ハートフルADVを謳うにしては深刻さをはらんだシチュエーションを嚆矢とする。作品へ付された高い評価と冒頭で示されるこのシチュから、盛大なトリックを用いたシナリオを想像したものだが、力いっぱい直球勝負だった。
家族をテーマに据えると無条件の愛をいかに表現するかといった方法論を想定してしまう。だがこの作品では本来の家族と行き場を失った赤の他人同士がそれぞれのエゴと都合で集うロールプレイであるから、それは眩しい幻想として扱われる。このため、それぞれの人物が持つ家族という形へのスタンスは一意ではない。幻想を失った者、壊された者、壊した者、忘却した者、持たざる者。これらを解きほぐして、すり替えて、絡み合わせて新しい一意の姿が生み出されようとする様に他作品との一線を画した力強さを感じた。
であればこそ、それが完膚なきまでに生み出される物語をも望んでしまうのは贅沢というものであろうか。
個別シナリオはそれぞれに素晴らしく、見応えのあるものであったが...。
家族計画。
一種の喜劇性や生々しさを含む単語。この単語に祈りにさえ似た希求を埋め込んで、言葉としてのイメージを変容させてしまったこの作品が、個別のシナリオで個別の関係へ収斂するだけに終始したのは私としてはもどかしさがある。ただ、家族計画に対するシナリオ別の解を示していながら締めとして明白に描かずに（イベント絵がなかった）、プレイヤーに後を引かせて作品を印象付ける手法などを鑑みると、全体ルート、全体エンドみたいなものがなかったのはライターの意図なのかもしれない。
とはいえ、例えば茉莉編などは上記手法を差っ引いても非常に心温まるまとめ方で、もし全体エンドが別にあったとしたら、対比として喝采するほど効果的に機能したんだろうと惜しんでしまう部分があるのも拭えないな。
シナリオやテーマと共に私が感じたもう一方の魅力がテキスト。
上手いとか下手とかではなく。シーンに沿って選ばれた言葉のひとつひとつや、感情を象られたセンテンスのもつ重量。これらの文章が持つ圧力。これは技術なのか。確信なのか。事実なのか。
飾り気のない、何かに裏打ちされたかのような物言いは返しのついた言葉の矢で、打ち込まれたら身動きが取れなくなる。目を逸らしてはいけないものが見える気がする。でもこの作品をプレイしてる今こそが現実逃避の所産であるかもしれないとしたら、逃げる先などはもうない。
こんな錯覚を覚えて危険領域。ハートフルを！ もっとハートフルを！
我ながら意味不明。
今回は声ありバージョンをやったわけだが、この作品でも中の人はすばらしい仕事をしている。
茉莉が笑い転げるシーンなどは絶妙。「箸が転がってもおかしい」を体現して感服です。他にも半泣きで別れを独白する春花や、各キャラの嗚咽シーンはこっちの胃が重くなってくるほどの臨場感でアカデミー声優賞を差し上げたい。
ちなみに最もお気に入りのシーンが実は共通ルートにある。ロイエンタールが時計を見...、いや違った、寛が現刻とともに家族計画の終了を宣告するシーン。なんかね、もうほんとドラマだ。このシーンを見るたびになんでアニメ化しないのか疑問に思っていた。いや別にアニメ化して欲しいというわけじゃないんだが、このシーンをアニメできっちり描いたらすごく背筋にくるものがあるんじゃないかと思うわけで。
若本GJ が世界共通語になる日も近いな。
さて、本作はエロゲ史上で最高評価を受ける作品の一つとして、私の期待度も相当高かったにも関わらず見事に越えていってくれた。震度8相当の立ち絵や、設定もしくはシーン繋ぎの矛盾等を差っ引いても絶賛せざるを得ない。
凄い作品です 至高の泣きゲー 家族愛- Newer: コンチェルトノート
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