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マブラヴ オルタネイティブ

  • Posted by: harusui
  • 2007年8月 3日 00:00
  • game

......絶句。
予想を遥かに超えたな。なんかもうすごいことになっている。なんだこれ。
エロゲジャンル(これをエロゲというのも無理がある気がするが)に属していながら、なんでこんな超大作になっている。このジャンル懐が深すぎる。
age本気出しすぎだろ。


UNLIMITED編でも書いたように、緻密な設定と提供が世界を生きたものとして感じさせている。シチュエーション先行型の作品が多い中で、黙々と外堀を埋め立ててから道を通すことでその後の展開に説得力を持たせている。イベントが王道だろうがあざとかろうが、それ以前にこの世界に引き込んでおけば十二分に効果を発揮するというのは正しい。UNLIMITED編から積み上げた成果として実を結んでいる。

名場面に事欠かない本作において、一風毛色の変わったシークエンスとして「12・5事件」と銘打たれたイベントがある。作中の舞台である日本帝国内で発生したクーデター事件で、命名からも察せられるように「2・26事件」をモチーフにしたイベントである。
その思想や目的も大筋として2・26事件を(たぶん...おそらく...なんとなく...)踏襲する。ここに作品世界を反映して日本帝国、米国、国連、そして国連に属していながらもオルタネイティブ計画実施機関として特殊な立ち位置を取る主人公達(というより夕呼先生)を絡ませ、水面下で四つ巴の思惑を交錯させている。(とはいえこれはあくまでバックボーンであって、実際の進行ではあまり触れられない。)
そうした状況下に於いて、その言葉や行動が日本人としての琴線に触れるように演出されているクーデター側と、完全な政略・打算の産物として介入してくる米国との対比や、この時点における主人公の感情(即ち、シナリオに導かれたプレイヤーの感情)を米国軍士官に代弁させることで矮小化し、彼の成長のための一助にしてしまうと同時に作中における米国の立場をひっそりと引き降ろすような展開は、ある種の作為を感じ取れる。
それでもなお、微妙な悪役風味で登場させた米軍が、結果的には事態を収拾するための大きな役割を担ったことや、先の米軍士官が自分の立場と目的を弁えた折り目正しい人物として描かれていることなどは、現実のパワーバランスを引き合いに出すまでもなく皮肉の効いたものになっている。
そして、2・26事件において、昭和天皇はその鎮定に親征を匂わすほど激怒なされたというが、本作では征夷大将軍(国事全権総代)が決起派の心情を慮った演説を行っていること、また事件後ショックを受けた昭和天皇が統治から距離を置く立場を徹底なされたのに対し、作中では逆に制限されていた権限が将軍に返上されていることなどは、12・5事件の首謀者が渦中に散ったはもののその目的を概ね成就したことを表しており、2・26事件の結末をフィクションの中で塗り替えるシークエンスであったと捉えることもできる。
これらの状況構成やモチーフとの差異は、作品物語とはベクトルを異にしており、ライターの思想を色濃く写している気がする。
2・26事件は結果的に、その後の東条をはじめとする軍部の台頭を招く契機となり、日本が激動の歴史を歩む端緒となった。
そういったことも含めて、描かれていないその後の作中日本帝国の行く末や、あるいは現実の日本を取り巻く現在の情勢などと照らしてみれば、これは多分に含みのあるシークエンスだったのではないかと思う。

余談ではあるが、作中の12月5日は雪の描写で、パトレイバー2を思い出させた。あれも戒厳令下の東京に降る雪が印象的だった。そして、昭和11年2月26日の東京も、雪の日であった。
あの日から、「降り積む雪」は「革命」の枕詞的で。

ただ、別の見方をすれば単純に天元山イベントの焼き直しだったりしたりしなかったりごにょごにょ。

その後のイベントはシナリオの進捗に従って王道的に着々と進行する。そのどれもが息を詰めて見入ってしまうとても良い出来。

まりもちゃん事件ではシーンの唐突さにとまどった。物議を醸した例の画像も、かなりショッキングなものであった。ただそれは画像そのものよりも、キャラクターに対するプレイヤーの感情移入に因るものが大きいような。つか私はそうたった...orz
その意味では、そこに至るまでのキャラクターの確立と演出、それを利用したイベント構成と効果、という制作側の意図が思惑通りに発揮された会心の出来と言えるかもしれない。やってるほうはキツイけど。
まぁ私としては横浜基地でのイベントよりも、その後のEXTRA世界での出来事が一層ショックだった。あれはちょっと予想出来ていなかった。「事件」が起きるまでは、主人公と私のシンクロ率が高くて中々気持ちよかった。それを見事にひっくり返されて俄然唖然呆然。とはいえそれも主人公の置かれた状況をちゃんと味あわせてくれたという意味では、これもまた会心だ。でもやっぱキツイよねぇ...。
このシークエンスのもう一つの重要な役割は、シナリオ上の転換点であることではないかな。
作品世界の置かれた状況、つまり人類が滅亡一歩手前である危機に瀕していることやその元凶である脅威そのものについては、これまでも折に触れて説明されてきた。とはいえ物語は(12・5事件も含めて)内輪的に進行してきていて、せっかくの世界観もまるで外の世界の出来事だった。このまま内輪で終わっちゃったらどうしよう......なんて心配もあったけど杞憂でよかった。(そんなアニメ昔あったよな、某ガンパレ...あれはもったいなかった。)
この後、グルッと音を立てて向きが変わる。危機、脅威との直接の対峙だ。
物語的には、主人公の決意と覚悟で表現されている。こいつの覚悟とかってあんまアテにならんのだけどね...。
そして夕呼先生かっこええー、で終わる。

甲21号作戦。
これは清く正しい燃えシークエンス。ストレス発散風味な主人公の大活躍にあからさまな死亡フラグ。 アルマゲドンっぽい別離シーン。わかっちゃいるけど、こう、ググッっときてしまう。
大尉のシーンは、ちょっとくるね。あざとくて大好きだ。本人が「自分は厚遇されている」みたいなこと言っていたけど、ゲーム終了したプレイヤー視点からしても確かに厚遇だったな。出ずっぱりのヒロインズよりも手厚く描かれていた。
そして、これみよがしに登場する小沢、安部の両御大。しかもかっこいいし。スタッフ遊びすぎだろ...。加えて散る役(散ってないっけ?)が安部って...なんの符号ですか。預言者ですか...。

横浜基地防衛戦と桜花作戦の緊張感は異常。とてもゲームとは思えない。知らず手に汗握ってしまった。ああーこの展開は死ぬシヌ絶対死んじゃう...でもなんとか生き延びて~...と思わずにいられないほどおもしろかった。
だが、苦言を呈そう。
横浜基地防衛戦におけるA-01部隊半壊という結果は(基地自体が半壊してるけども...)、シナリオ的にいかにもやっつけ仕事だったと言わざるを得ない。あれは後に控えるクライマックス、桜花作戦を主人公チームだけで演出するために、余剰をまとめてご退場願ったという意図があからさまであった。
せっかくそれまで丁寧に描いてきたのに、ここのはしょりっぷりは残念にすぎる。もったいない。

その不満もあっという間に蒸発してしまうほどの名シーンが、桜花作戦出撃時のムービーシーンだ。個人的にはゲーム史に残してもいいほどの出来だったと思う。若本GJとも言う。
ムービーと共に流れるラダビノッド司令官の演説が素晴らしく、出撃していく若者達に向ける「我らの無能を許すな」という彼の言葉は、演出の良さもあってとても響くものがあった。
そして、夕呼先生が親友の遺影を大事そうに抱えて部下達の、親友の「子供たち」の出撃を見送る姿は、涙を堪えるのが難しい胸に迫る場面であった。

この作品は少年達が主人公のいわゆるありがちな設定ではあるが、大人たちが大人として振舞うことで腰の据わった世界になっていると思う。

さて、ボリュームと共に登場人物も多いこの作品であるが、ここはやはり何はなくとも夕呼先生でありましょう。
正主人公もメインヒロインもすっとばして、間違いなく夕呼先生が真主人公。
ストーリーは主人公の成長物語的王道を踏襲するものの、ヘタレっぷりはたいがいである。他は「君が望む永遠」しかやったことないけど、これはageの伝統なんだろうか。それでも某tkyk君と比べると大分前向きっぽさが出てはいるが。しかし、である。特に桜花作戦の最後なんてこの上なくイラつかせる。お前は何しに来たんだと。どうしたんだっ...じゃねーよ。お前がどうしたんだよ。ママを探して泣く迷子か。
おっと脱線。
これをユーザーの等身大と言ってしまうのは忸怩たるものがあるとはいえ、スーパーヒーローよろしく完全無欠っぷりを披露されても、こちらとしては興ざめしがちなのも確か。
ここで比較として低い重心で構えているのが夕呼先生だ。
よろよろふらふらと立ち位置の定まらない主人公とは逆に、強さも弱さも抱えたまま自分の信念に基づき手を汚すことを厭わず、欲や打算に固執せず本質を見据え、清濁きっちり合わせ飲んだ上で為すべき事を為す。まったくかっこいい頼れる大人として描かれている。
主人公もへたれてるだけではどうしようもないので、XM3や甲21号作戦の活躍等中々に華々しい成果を挙げているが、成果を単に成果として描かずに、主人公には一歩引いた態度を取らせて夕呼先生の評価というスタンスで表現するやり様は、まさに真主人公の真髄かと思う。
なんか、ホントに頼りがいがあったな。最初のEX世界で「ひさしぶり」なんて言われたときは、つ、ツボ突いてくるなぁ...と思わずしんみりしてしまった。
思い返せば、EXTRA編の委員長ルートで主人公を捜索に出すシーンなども、彼女の大人としての、指導者としての資質が垣間見える。
まりもちゃんも立場としては近いものがあるが、彼女には別の役割があったので是非もない。夕呼先生を父性的象徴とすれば、まりもちゃんは母性的なそれであったのかな。
それぞれに対する私の印象は上述の通りなんだが、桜花作戦出撃時のムービーの絵面などは逆っぽい雰囲気もあって興味深い。

Final Epiは評価が難しい面があるかもしれない。
所謂「ご都合的に復活して大団円」は、視聴者に忌避されやすい代表パターンだ。曰く、それまでの物語や視聴者の共感を台無しにしてしまうからだが、私としては、この作品のそれは好意的だ。
純夏とのシークエンスにおいて、主人公が「戻る」と宣言した以上、それが反故にされない限りこの結末は確定的に見えていた。また、主人公の行動目的と物語を下支えする論理的側面、EXTRA編からUNLIMITED編、ALTERNATIVE編へと変遷してきた作品構成からみても、そうせざるを得なかったはずだ。そうでないと破綻してしまう。
それに、気持ちのいい幕引きだったではないか。
ヒロインズは言わずもがな、霞が泣き出してしまうシーンはずっと付き合ってきたプレイヤーへの配慮として見ることが出来て(つまり彼女の登場と記憶の継承は、ALTERNATIVE編の一つの成果であり、共有してきたプレイヤーの成果でもあり、ALTERNATIVE編を切り捨てたわけではない、という制作の宣言として読める)感無量であるし、他の人物もきちんとフォローされていて、後を引かずに爽やかに切り上げていて満足できる。
その前に夕呼先生が「その後」に言及したのは現実的な補強を試みただけなのか、それとも続編的な何かへ道を残しておいたのか、ちょっと気にはなったけどね。

ついでに。
夕呼先生の因果律量子論はフィクション特有のトンデモ理論なのでともかくなんだが、そこで引用される「シュレーディンガーの猫」や「二重スリット実験」、「エヴェレット解釈」の概要くらいはプレイ前にググっておこう。
量子論なんてカケラのカケラすらわかりもしませんが、「まさかこんなところで役に立つとは!」的な興味本位で知ってて良かった雑学の範疇かも。
夕呼先生に3mmくらい近づけた気がしてお得な気持ちになれること請け合い。

...他にも語るべき内容や感想は尽きないのだが、いいかげんめんどくさくなったので終わっとこう。
非常に完成度の高い、名作と言っていい作品だったと思う。こういう出会いがあるから、ゲームはやめられない。

と、最後にダメ人間宣言して終了。いろんな意味で。

マブラヴ オルタネイティヴ DVD-ROM
アージュ (2006-02-24)
おすすめ度の平均: 4.5
5 パソゲ史上に残る伝説の作品
5 超々大作
4 国を護るとは...そんなことを考えさせられました。
5 ベストエンドではなく、グッドエンド。
5 涙を拭って さあ微笑んで

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